甲状腺機能低下症
●甲状腺とは?
甲状腺ホルモン(T4、FT4など)を分泌し、全身のあらゆる組織に作用し、その新陳代謝・働きをつかさどります。ホルモンの量は間脳視床下部によって監視され、厳密にコントロールされており、甲状腺ホルモンの増減に伴って、脳下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌も増減します。健康な個体ではこれらのホルモンの分泌の波が正常な範囲内で維持されています。これらのホルモンのバランスが崩れると、様々な症状が引き起こされます。
●甲状腺機能低下症とは?
甲状腺機能低下症は犬での発生が多く、甲状腺ホルモンの分泌量が病的に低下してしまうことで様々な症状を引き起こします。代表的な症状は以下のとおりです。
- 慢性皮膚炎(外耳道炎を含む)
- 被毛の光沢減退
- 脱毛、皮膚の色素沈着
- 食欲不振
- 肥満
- 元気消失
- 体温低下
- 心疾患
- 胆嚢・肝機能低下
- 高脂血症
- 神経障害(てんかん発作、虚脱)
副腎皮質機能亢進症と関連が強く、副腎皮質ホルモンの影響で二次的に甲状腺ホルモンが減少することがあります(糖質コルチコイドが甲状腺ホルモンとTBP(甲状腺ホルモン結合タンパク質)との結合を阻害することで、甲状腺ホルモンの分解が促進されます)。7歳以上の高齢犬に多く、年齢に伴って甲状腺ホルモンの分泌量は低下していきます。高齢になるほど甲状腺機能低下症の発生率は高くなります。甲状腺機能低下症の治療を行っているにも関わらず、治療効果が薄い、もしくは認められない場合には、副腎皮質機能亢進症が強く疑われます。これらの病気は症状が徐々に進行し、急変することも少なくありません。
●診断方法は?
血液検査による甲状腺ホルモン(T4、FT4)および脳下垂体ホルモン(TSH)の測定が必要です。甲状腺ホルモン(T4、FT4)が低く、脳下垂体ホルモン(TSH)が高い場合、甲状腺機能低下症の確定診断が下ります。
甲状腺ホルモン(T4、FT4)が低く、脳下垂体ホルモン(TSH)が低い・もしくは正常である場合、中枢性甲状腺機能低下症(ユーサロイドシック・シンドローム)という判断となり、また別の病気(副腎皮質機能亢進症など)の存在が強く疑われるため、その疾患の診断・治療を行います。
副腎皮質ホルモンの過剰分泌またはステロイド製剤の投薬によって甲状腺ホルモンの分泌量が二次的に低下することがあります。
●治療法は?
内服薬による内科的療法がメインとなります。薬の効き目には個体差があり、適切な薬用量を決定するために投薬開始後2週間後以降に再度甲状腺ホルモンの測定を行います。甲状腺がホルモンを作る能力を失っているため、内服薬は生涯投与となることがほとんどです。ホルモンの分泌量は病気の進行に伴い変化しますので、投与量の増量・減量を行うために定期的な甲状腺ホルモンの測定が必要です(通常6ヶ月毎)。
TSH、FT4、T4すべてのホルモン分泌量が低下した状態をユーサロイドシック・シンドロームと呼び、全身状態の悪化を示唆しています。この場合、甲状腺の機能低下は二次的なものであり、原因疾患の特定、治療が必要となります。