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病気のインフォーム

糖尿病

●糖尿病とは?

 尿中に糖が出てしまうほど、血糖値が上昇してしまう病気です。通常、食事を食べると血糖値が上昇しますが、その後、正常値まで低下していきます。それは、膵臓にあるβ細胞から血糖値を下げるためのホルモン「インスリン」が分泌されるためです。血糖値が下がりすぎると、血糖値を上昇させるホルモンが分泌され、これらのバランスで血糖値が正常範囲に保たれます。
 「血糖値が高い」=「栄養分が豊富」と思われるかもしれませんが、インスリンの作用(血管の中から細胞の中へブドウ糖を移動させる)が弱っているので、血管の中にブドウ糖が多く存在し、細胞の中ではむしろ糖が不足している飢餓状態が起きているのです。特に、脳の栄養源はブドウ糖のみで、タンパク質などの他の栄養素をエネルギー源とすることはできません。飢餓状態に陥ると細胞は死んでしまうため、どうにかしてタンパク質や脂質からエネルギーを作ろうとがんばります。その過程で、好ましくない物質「ケトン」がどうしても生じてしまいます。ケトン体が異常に増えて血液が酸性になった状態を「ケトアシドーシス」と呼びます。
 また、ブドウ糖は細胞の栄養源ですが、過剰なブドウ糖は血液の異常な浸透圧上昇を引き起こすなど、毒性(高浸透圧高血糖症候群)を示します。高血糖状態が続くと、血管や神経がボロボロに障害され、全身に様々な症状を引き起こします。

●糖尿病の原因は?

 遺伝的要因、自己免疫疾患、無分別な食事、肥満、他の疾患からの二次性糖尿病(高脂血症、慢性膵炎、副腎皮質機能亢進症、先端巨大症、ストレスなど)により起こるとされていますが、犬猫の糖尿病の原因にはまだ不明なところが多いです。ヒトの糖尿病は「1型糖尿病」「2型糖尿病」などに大別されています。1型糖尿病ではインスリンを分泌するβ細胞が破壊されることでインスリンの欠乏状態になりますが、そのほとんどが自己免疫疾患によるものです。2型糖尿病は肥満などが原因でインスリンの作用が弱まったり、二次的にβ細胞が傷害されることでインスリンの量が減少し、インスリンの作用が弱まる状態(インスリン抵抗性)に陥ります。 猫の糖尿病の多くは人の2型糖尿病に近い病態であると言われています。犬は1型糖尿病が多いとされていましたが、近年では1型/2型どちらでもない糖尿病が多いと言われています。

●糖尿病の症状は?

 糖尿病の代表的な症状は以下のとおりです。糖尿病はさまざまな合併症を引き起こしますが、特徴的な症状は少なく、発見が遅れることも少なくないため注意が必要です。

  • 食欲増進(初期症状)
  • 食欲不振
  • 多飲多尿(正常な飲水量は一日50cc/kg以下)
  • 体重減少
  • 元気消失
  • 白内障などの眼疾患
  • 脱水症
  • 消化器症状(下痢・嘔吐)
  • 神経症状(フラツキ、ふるえ、起立困難など)
  • 低血糖発作
  • 昏睡
  • 感染症(皮膚病、歯周病など)
    など
  • 糖尿病の病態
●治療方法は?

 ケトン尿の排泄、神経症状、昏睡、低血糖発作などを起こしている場合、そのまま命を落とす可能性があるため、緊急入院による集中治療が必要となります。緊急状態を回避できたら、在宅治療を始めるための検査を行います。

◇集中療法
 まずは高くなりすぎている血糖値を正常値へ戻すことから始めます。ただし、急激に血糖値が下がりすぎると、血液の浸透圧(水を吸い寄せる力)が急速に落ちることで脳浮腫を引き起こす危険があります。そのため、インスリンの静脈内持続点滴を用いてゆっくりと血糖値を250㎎/dl付近まで下げます。また、インスリンは血糖値だけでなく、無機リンの低下(細胞内への取り込みを促進する作用)を引き起こすため、状況に応じて無機リンの添加もおこないます。基礎疾患のない糖尿病では、通常1~2日で正常血糖値まで下げることが可能ですが、逆に通常の手法で血糖値が減少しない場合、基礎疾患が存在する可能性を考慮し、適宜追加検査をおこないます。

 そのほか、合併症(感染症、肝機能不全など)に対する治療を同時並行で進めていきます。

◇食事療法
 血糖値の上昇が緩やかな食事(療法食)に変更し、規則正しい時間に食事を与えるようにします。合併症が起きている場合、それに適した療法食を与える場合もあります。後述するインスリン療法をおこなう上で、食事療法は非常に大事な要素となります。

◇インスリン療法
 インスリンを注射することで血糖値をコントロールします。同じところに打ち続けると皮膚が硬化する事があるため、打つ場所は適宜変えながらおこないます。インスリンの量が多すぎると低血糖に、少なすぎると高血糖になるため、インスリンの効き目の見極めが非常に重要になります。また、食べた食事の量とインスリンの量に注意をする必要があります。特に、食欲が無いときにはインスリンを打ってはいけません。

 インスリンの投与量を決定するために、まずは1週間ほど低用量のインスリン投与をおこない、体にインスリンを馴れさせます。その後、一日入院をして、食事の前後、インスリン投与前後からの血糖値を複数回測定することで血糖値の推移を確認します。その結果により、インスリンを投与するタイミング、量、種類、回数を決定します。コントロールが上手く行かない場合、インスリンの量などを変更して血糖曲線の作成を再度行います。

 インスリンの種類には様々ありますが、作用する時間の長さ、強さで特徴が分かれます。前述したとおり、血糖値は高すぎても、低すぎてもいけません。そのため、食後何時間に血糖値が最大になるのか、インスリンによって最も血糖値が下がるのが投与後何時間かを把握することは非常に大事です。糖尿病用の療法食は一般的に血糖値の上昇が緩やかであるため、血糖コントロールに適しています。

 重度の脱水、肥満、未去勢・未避妊による性ホルモンの分泌、副腎皮質機能亢進症、高脂血症、慢性膵炎などの炎症性疾患、ステロイド薬の投薬など、様々な要因でインスリンの効き目が弱まります(インスリン抵抗性の増加)。そのため、インスリン療法での血糖値のコントロールが困難である場合、その原因となる疾患に対しての治療(避妊手術を含む)を行うことも必要になります。